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前橋家庭裁判所 平成5年(少)1226号 決定

少年 I・N(昭和50.6.25生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(非行に至る経緯)

少年、A、B、C、D、E、F、G、H、Iは暴走族甲(以下「甲暴走族」という。)の構成員であり、J及びKは暴力団○○一家△△組組員として、LはOBとして、甲暴走族の活動を指揮・援助していた者、M、N、O、Pは甲暴走族と友好関係にある暴走族乙(以下「乙暴走族」という。)の構成員であるが、平成5年7月17日に群馬県伊勢崎市で開催された七夕祭りの際に暴走族丙(以下「丙暴走族」という。)の構成員と甲暴走族の構成員との間で喧嘩が起こってこれ以降対立関係が生じ、同年8月27日から翌28日の深夜に同県勢多郡○○村内の○○公園内で両者が喧嘩をしたものの、一方的に甲暴走族及び乙暴走族が敗北し、甲暴走族構成員のQとRが入院を要する程度の怪我をした上、バイク数台を丙暴走族に持ち去られてしまった。そこで、Kと少年は同月28日に甲暴走族の構成員を同県伊勢崎市○町字○○××番地×所在の甲暴走族事務所(元有限会社○○の建物)に集合させ、同月31日か9月1日ころに丙暴走族に対して報復の喧嘩を仕掛けるこ

とを告げた。

(非行事実)

K、少年、E、A、B、C、Iは、平成5年8月30日午後8時30分ころ、群馬県伊勢崎市○町××番地×所在の甲暴走族事務所において、「丙暴走族の構成員を人質として拉致し、この人質に怪我をするくらいの暴行を加えてでも構成員の氏名や上記の持ち去られたバイク等の所在を聞き出し、丙暴走族が喧嘩に応じるように仕向ける」旨の共謀をした上で、その後、H、F、D、G、L、J、更に乙暴走族のM、N、O、Pとも順次上記の共謀をなした上、H、G、少年、I、A、B、E、F、C、D、M、N、O、Pの14名が4台の乗用車に分乗し、2台ずつの乗用車のグループを2組作って同日午後10時30分ころに伊勢崎市内から同県太田市内に出掛け、31日午前零時ころ、同市○○××番地の××付近路上でSをF、D、C、N、M、O、Pが、同市○○××番地の×所在の太田市営○○団地西側路上でT及びUをH、G、少年、I、A、B、Eが、それぞれ乗ってきた乗用車内に乗車させて上記甲暴走族事務所まで連行し、

第1  平成5年8月31日午前1時ころSを、同日午前1時30分ころT及びUを、上記甲暴走族事務所建物に連れ込んで甲暴走族構成員らの監視のもとに置いて同日午前4時ころまで同所からの脱出を不可能にし、もって上記3名を不法に監禁した

第2  前記日時ころ、上記事務所及び敷地内において、上記3名に対して執拗に丙暴走族の構成員であることを認めさせようとしたり、8月27日から28日にかけて持ち去られたバイクの行方を詰問したりしているうちに激昂し、同所に集合してきた甲暴走族のその余の構成員らとの間でも、上記3名に対して怪我をするくらいの暴行を加える旨の共謀を暗黙のうちになした上、

1  S(当時16年)に対し、熱したバーベキュー用のフオークをその胸部などに押し当てたり、手拳で殴打したり足蹴りにしたりするなどの暴行を加え、よって加療約3週間を要する両肩打撲挫傷、両肘部打撲、胸部打撲挫創、左第11肋骨骨折及び右下肢打撲の傷害を負わせた

2  U(当時16年)に対し、一輪車をぶつけたり、植木鉢を投げつけたり、金属バットや手拳で殴打したり、足蹴りにしたりするなどの暴行を加え、よって加療約1週間を要する背部、顔面打撲及び両前腕挫創の傷害を負わせた

3  T(当時17年)に対し、金属バット、スパナや手拳で殴打したり、足蹴りにしたりしたのみならず、スプレー式殺虫剤から噴射される薬剤に点火してその炎を顔面付近に吹きつけたり、沸騰した油を膝にかけたりした上、座卓の天板でその頭部を数回殴打するなどの暴行を加え、よって頭部打撲の傷害を負わせたため、これを原因とする脳硬膜下出血に基づく脳圧迫により、同日午前6時ころ、収容先である同県伊勢崎市○○町××番地所在の○○病院において、同人を死亡させた

ものである。

(法令の適用)

第1について被害者毎にいずれも刑法60条、220条1項

第2について1、2につき同法60条、204条

3につき同法60条、205条1項

(処遇の理由)

1  少年は、群馬県内の高校に進学し、野球部員として寮生活をしていたが、怪我で練習ができなくなったことをきっかけにシンナ一吸入や飲酒喫煙等の逸脱行動を始め、当庁において平成3年10月25日に窃盗保護事件で不開始の、同4年5月6日に道路交通法違反(無免許運転)保護事件で保護観察(交通短期)の決定を受けた。この間、同4年2月に高校を中退した後は、家業の清掃業を手伝っていた反面、同年6月には甲暴走族に入会し、同5年5月には5代目の総長となった。同年6月以降は普通免許取得のため稼働していなかった。

2  本件は、暴走族間の対立抗争の過程で生じた事件であり、甲暴走族側が次の喧嘩を有利に進めるために丙暴走族の構成員を人質に取って他の構成員の住所等を聞き出し、併せて8月27日から28日にかけての喧嘩で持ち去られたバイクの行方を問い質そうとしたことが発端となっているが、生じた結果は拉致したうちの1名を死亡させるという取返しのつかない重大なものである。その態様についても、上記Kの指揮のもとにあったとはいえ、拉致のための武器やガムテ一プを用意し、少年らは上記(非行事実)で認定した共謀の内容を十分に理解し、それぞれの意思に基づいて太田市内へ出かけて本件の被害者3名を拉致し、甲暴走族事務所の場所を知られないように目隠しをした上で同事務所内に連行し、約3時間にわたって、正座させたり、ガムテープで動けないようにしたりした無抵抗の被害者らに陰湿というほかはない暴行を執拗に多数人で加え、病院に連れて行こうという意見もあったものの、発覚を恐れるKらに命令されて結局高崎市内の関越自動車道下のカルバートボックス内に放置したというもので、拉致から放置までの一連の行為を全体的に観察すれば、死亡したTに対する関係では、殺人に極めて近い傷害致死と評価せざるを得ず、他の2名に対する関係でも骨折等の怪我をさせており、重大な非行といわなければならず、このような非行態様に照らすと、本件は刑事処分相当性の高い事案である。

そこで、まず、少年を保護処分によって矯正することが可能かどうかを検討する。本件非行において少年の果した役割は、甲暴走族総長としてKの指示の下に構成員を事務所に集合させて上記(非行事実)認定の共謀をなし、武器として金属バットを調達し、自らもT及びUの拉致に参加し、甲暴走族事務所に戻ってからはUに金属バットで殴打する暴行を、Tに手拳及びスパナで殴る・足蹴りにする並びにスプレー式殺虫剤から噴射される薬剤に点火して、その炎を顔面付近に吹きつけるといった暴行を加え、更に被害者3名を関越自動事道のカルバ一トボックスに放置したというものである。この役割分担、少年のこれまでの非行歴(規範意識に乏しく、安易に非行を行っていること)、成育歴(両親が少年に対して毅然とした態度を取るに至らず、暴走族への加入と総長就任の事実を知りながらそのままにしてしまったこと)から考えて、少年の逸脱行動は、社会(学校や家庭)が自分の甘えを受け容れてくれないという欲求不満の解消方法でもあり、不良交遊関係の中での自己顕示行為でもあったといわなければならず、少年の規範意識に乏しく、自己中心的で自主的な判断力に乏しい反面、他人の意見に付和雷同して周囲に自分を良く見せようとする性格や、仕事をしていれば不良交遊関係は多目に見てくれてもよいだろうといった生活態度は、本件に至るまでの保護処分によっても改善されておらず、社会内では守るべきルールを自己の責任で守っていかなければならないことや他者に対する配慮や思いやりがあって初めて社会で自立することができるといった、社会内での経済的・精神的自律に必要な姿勢は身に付いていないといわなければならない。少年のこのような問題点の改善にとっては、教育的措置が受刑よりも望ましいといえるから、矯正可能性は存在すると判断する。

次に、保護処分による矯正が本件の重大性等の観点から適切かどうかを検討する。本件各非行がKらの指揮に基づいており、少年らがKらに反抗することは現実には不可能に近い状況にあったこと、被害者らを病院に連れて行こうと提案したこと、本件に対する自己の責任を痛感して自首したこと及び少年が現在18歳3か月であることを考慮すると、なお保護処分による矯正の機会を付与することが適切であると判断する。

3  少年は逮捕に引き続いて鑑別所での観護措置を受ける過程で、今回の非行に対する反省悔悟の決意を生じてはいるが、総長としての役割を本件において少なくとも事務所における暴行の時点までは積極的に果たしていたことからすると、なお事件の重大性について深く反省・検討する機会を付与し、ひいては自分自身で自己の問題点に気付き、これを改善していく意欲を生じさせることのできる環境が必要であるといわざるをえないこと、保護者の監護能力にはこれまでの経韓からして全幅の信頼を置くことはできないことからすると、本件を契機として少年の性格を矯正し、徹底的な更生を実現して社会内で経済的・精神的に自立していくことを可能にするためには、少年鑑別所の生活に引き続いて、なお厳格な規制の可能な生活環境下での生活指導を施すことが不可欠であり、かつ本件において少年の果たした上記2の役割を処遇に反映させることは事案の重大性に照らすと当然であるから、特別少年院への送致が相当である。

その期間については、これまでの非行歴及び少年の上記性格を考えると、短期的な収容では十分な効果を挙げることができるかどうか疑問であること、少年事件について保護処分を選択した場合であっても責任の要素を度外視することは許されないというべきであることからすると、別途処遇勧告書記載のとおり、少年を長期にわたって収容せざるを得ないものと判断する。

4  よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 野村朗)

処遇勧告書〈省略〉

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